「全国でPTはどの病棟に何人いるのか」——これほどシンプルな問いに、実はきちんと答えられるデータが存在しません。調べれば調べるほど、数字の不在と不一致が見えてきます。

今回は厚労省とPT協会という2つのデータソースを使って試算し、その結果を比較しました。出てきた答えは「急性期と回復期の比率が逆転する」という、直感に反するものでした。

データソース①:厚労省データから試算する

令和6年度入院・外来医療等における実態調査(中医協)には、病棟種別ごとの「40床あたりリハ職数」と全国病床数が掲載されています。これを使って試算すると以下のようになります。

病棟種別 40床あたりリハ職数 全国病床数
急性期一般入院料1 1.22人 334,960床
急性期一般入院料2・3 1.59人 29,468床
回復期リハビリ病棟 15.79人 95,710床
地域包括ケア病棟 2.66人 102,335床

この数字をもとに【40床あたりリハ職数 × 全国病床数 ÷ 40】で計算すると:

急性期:(1.22 × 334,960 + 1.59 × 29,468) ÷ 40 ≒ 約11,388人
回復期:(15.79 × 95,710 + 2.66 × 102,335) ÷ 40 ≒ 約44,587人

この計算によると、急性期と回復期の比率は約1:3.9。回復期に大きく偏った結果です。急性期ってそんなに少ないの?というのが正直な感想です。

ただし、この数字には大きな注意点があります。厚労省データの「リハ職数」はPT・OT・STの合計であり、PTだけの数字ではありません。また40床あたりの平均値から逆算しているため、計算の粗さは否定できません。

データソース②:PT協会データと比較する

日本理学療法士協会の会員データには、勤務先の病棟種別ごとのPT人数が掲載されています。

病棟種別 PT人数
急性期(高度急性期含む) 30,932人
回復期(回復期リハ病棟+地域包括) 21,823人
療養 3,111人

こちらの比率は急性期:回復期=約1.4:1。急性期の方が多いという、厚労省データとは逆の結果になりました。

2つのデータが逆転する

厚労省データから試算
1 : 3.9
急性期 : 回復期
PT協会データ
1.4 : 1
急性期 : 回復期

これだけの開きが生じた理由として考えられるのは以下です。

これらの要因を考慮しても、ここまで逆転するとは考えにくい。どちらかのデータに構造的な問題がある可能性が高いです。

そもそも「正確なデータがない」こと自体が問題

⚠️ データの不在という根本問題
私が試算しなければ出てこない数字、そして出した数字が合わない——このこと自体が問題の核心です。

医師には「医師・歯科医師・薬剤師統計」があります。2年ごとの届出をもとに、年齢・性別・診療科・従事場所などで全国の分布が見えます。さらに「医師偏在指標」という公式指標があり、都道府県別・二次医療圏別に需要や患者流出入も踏まえて多い少ないを評価できます。これは医療法に基づく法的根拠を持つ指標で、都道府県の医師確保計画にも活用されています。

一方、PTにも部分的なデータはあります。PT協会の会員分布、厚労省の40床あたりリハ職数、過去の需給調査や勤務実態調査など。しかし物差しが揃っていません。PT協会はPT会員のみ、厚労省はPTOTST合計。片方は勤務先区分、片方は病棟あたり配置。そのまま重ねることができないのです。

📋 過去にも指摘されていた問題
2016年の厚労省需給分科会においても、理学療法士の勤務実態について情報が不足していることが課題として確認されています。以前から認識されながら、解決されていない問題です。

なぜこれが重要なのか

土台となる信頼できるデータがなければ、偏在も需給の問題も政策議論にすら乗ることができません。

医師不足・医師偏在が社会問題として議論され、対策が打たれるのは、数字の土台があるからです。「○○地域では医師が△△人不足している」という具体的な数字があって初めて、政策が動きます。

リハビリテーション専門職においては、その土台が整っていません。「急性期にPTが足りない」「回復期に偏りすぎている」という肌感覚があっても、数字で示すことが難しい。これは専門職としての政策交渉力にも直結する問題です。

この記事のまとめ
  • 厚労省データでは急性期:回復期=1:3.9、PT協会データでは1.4:1と逆転する
  • データの定義・対象・計算方法が異なるため単純比較はできない
  • PTの勤務実態を正確に把握できるデータが存在しないこと自体が問題
  • 信頼できるデータの整備は、政策議論・偏在対策の前提条件である