2025年5月13日、厚生労働委員会で「リハビリ」の名称をめぐる質疑がありました。民間事業者が掲げる「リハビリ」と、PT・OT・STが提供するリハビリテーション——同じ言葉を使っていても、中身はまったく違うのではないか。「紛らわしい名称」という切り口から、この問題を調べてみました。

調べてみると、思っていたよりごちゃごちゃしています。定義の混在、省庁間の思惑のズレ、そして法的な線引きの不在。この記事では、自費リハと自称リハの違い、なぜこの市場が拡大したのか、今後どうなっていくのかを整理します。

「自費リハ」と「自称リハ」——何が違うのか

まず言葉の整理から。「自費リハビリ」と「自称リハビリ」は似た言葉ですが、指しているものが異なります。

自費リハビリPT・OT・STの資格を持つリハビリテーション専門職が、保険外で提供するサービス。日医総研の報告では「医療機関が行う保険外リハビリ」、広義には「医療機関外で専門職が個人提供するサービス」も含む。
自称リハビリ医療機関以外の民間事業者が「リハビリ」と称して提供するサービス。PT・OT・STの在籍を問わない。日本医師会がこの呼称を使用。

リハ専門職が行う自費リハと、専門職の在籍を問わない自称リハ。同じ「リハビリ」を掲げていても中身が違う。しかし利用する側からは区別がつきません。

ここが曖昧でグレーになりやすいポイントであり、国も問題視しています。2025年5月13日の厚生労働委員会で「名称使用の実態把握を含め対応する」との答弁が出ました。

⚠️ 法的な線引きがない
現時点で「リハビリ」という名称の使用を制限する法律はありません。PT・OT・STの名称独占はありますが、「リハビリ」という言葉自体は誰でも使えます。利用者が専門職によるサービスかどうかを判断する手段がない——これがこの問題の根本です。

専門職なら自由にやれる——わけではない

「PT・OT・STの資格があれば、保険外で自由にリハビリを提供できる」と思われがちですが、実はそう単純ではありません。

理学療法士及び作業療法士法では、理学療法・作業療法は「医師の指示の下に行う」と定められています。つまり、医療機関の外で医師の指示なく活動する場合、たとえPTの資格を持っていても「理学療法を提供する」とは法律上言えません。

⚠️ 名乗れるのは資格名だけ
PT・OT・STには名称独占があります。「理学療法士」と名乗ることはできる。しかし医師の指示がない民間での活動において「理学療法を提供します」とは書けない。資格はあっても、提供するサービスの名称には制約がある——ここを見落としている専門職は少なくありません。

ではどうしているかというと、実際に自費で活動している専門職の多くは、この法的制約を理解した上で工夫しています。「理学療法」ではなく「運動指導」「コンディショニング」「身体機能改善プログラム」といった表現を使い、法に抵触しない範囲でサービスを提供しているケースが多く見られます。

💡 制約の中で専門性を活かす
名称の制約があるからといって、専門職としての知識や技術が活かせないわけではありません。評価の視点、リスク管理、動作分析——資格名を使えなくても、専門職としての中身は提供できる。法的なルールを守りながらどう価値を届けるか、そこに工夫の余地があります。

ただし、この「工夫」が必要な状態そのものが、制度の整備が追いついていないことの表れでもあります。専門職が堂々と専門性を掲げられる仕組みになっていない——この構造的な課題は、後述する省庁間の縦割りと無関係ではありません。

なぜ民間リハビリは増えたのか

民間事業者が「リハビリ」と称して提供するサービスは増加しており、今後も伸びると言われています。

増加の背景には、リハビリの算定日数に上限ができたこと、その上限を超えた患者——いわゆるリハ難民——の受け皿として民間に委ねる仕組みができたこと、そしてPT・OTの過剰供給が民間参入を後押ししたことが挙げられます。

しかし、この流れを先導していた組織があります。

省庁ごとの思惑

2006年
厚労省が疾患別リハビリに算定日数上限を設定 保険リハの「出口」が絞られる
2010年
経産省が「フィットネス事業者のリハビリ参入」を提案 リハビリを「医療」ではなく「産業」と位置づけ
2013年
閣議決定「日本再興戦略」で「医療機関からの指示を受けた運動サービス創出」 社会保障費抑制+成長戦略の両立を狙う
2026年
厚労省がリハビリテーション政策の「統括調整室」を設置 縦割り行政の横断的な整理に着手

整理すると、こうなります。経産省は「ヘルスケア産業=成長市場」として保険外サービスの市場拡大を推進した。内閣は社会保障費抑制と成長戦略の両立を狙った。厚労省は算定日数上限で保険リハの出口を絞った。

この3つが重なった結果、保険で救えない患者の受け皿が、質の担保もルールも曖昧なまま民間に開放されたのです。

💡 民間リハ市場は厚労省の外で後押しされた
リハビリテーションの質と安全を守る厚労省と、産業としての成長を推進する経産省。この縦割りが、グレーゾーンの拡大を許した構造的な背景です。統括調整室の設置は、この曖昧さにメスを入れる第一歩と言えます。

SNSで見える世界と実際の分布

XではPTやOTの転職、自費リハ、起業で活躍されている方のポストが目立ちます。しかしPT協会の最新統計を見ると、実態はかなり違います。

病院勤務約6割
介護分野約1割
自費・スポーツ合わせて約1%

SNSで見えている世界と実際の分布はかなり違います。ただし、この1%は今後増えると考えられます。

根拠は大きく3つあります。PTの供給過剰(厚労省推計で2040年に需要の約1.5倍)、高齢者人口が2043年まで増加し続けること(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」)、そして処遇面の先行き不透明感。どのくらいのペースで増えるかは、まだ誰にもわかりません。

📋 日本医師会の報告
日本医師会総合政策研究機構(日医総研)も、民間事業者が「自費リハビリ」と称するサービスを「自称リハ」と表現し、「過剰な供給体制が市場を喚起することも予見される」と報告しています。

日医総研 報告書ページ

この市場の現在地

PT・OT・STの資格を持つリハ専門職が提供するものと、そうでないもの。この二つは、利用する側から見たら区別がつきません。法律上でも線引きができない。これが、この市場の現在地です。

民間でのリハビリが広がること自体は、リハ専門職の職域拡大に繋がります。制度が整い、資格を持つ専門職が明確に差別化され、グレーかどうかを気にせず安心して専門職が活躍できる市場になること. そのためにも、統括調整室の動きに注目していきたいところです。

この記事のまとめ
  • 「自費リハ」はPT・OT・STが保険外で提供するサービス、「自称リハ」は専門職の在籍を問わない民間サービス——同じ「リハビリ」でも中身が違う
  • 2025年5月の国会質疑で「名称使用の実態把握を含め対応する」との答弁が出た
  • 専門職でも医師の指示なしでは「理学療法を提供する」とは法律上言えない。民間で活動する専門職は名称を工夫しながら専門性を発揮している
  • 民間リハ市場は厚労省の算定日数上限・経産省の産業化推進・内閣の成長戦略が重なって拡大した
  • PT分布の実態は病院6割・自費スポーツ約1%。SNSの印象と大きく異なる
  • 統括調整室の設置は縦割り解消の第一歩。専門職の差別化と利用者保護の制度整備が今後の焦点

参考資料